
人生には、走り続けるしかない時期もあるものです。
そんな“自然の流れに逆らう日々”の中で、心身のバランスを崩し、繰り返す過呼吸に苦しめられたアンバサダーの北嶋麻紀さん。
自然の中でヨガと呼吸に向き合ううちに、“整えようとする”のではなく、“整えられていく”感覚に気づき、導かれるように体は回復への道をたどっていきました。
『自然が教えてくれた体との付き合い方』——その軌跡を綴ります。

みなさんは自分の体や心とどのように付き合っていますか?
私は体や心は自分でコントロールできるもの、そうされるべきものだと思って生きてきました。
ところが昨年、自分の間違いに気づく大きな経験をしたのです。
自分で自分の体をコントロールできない恐怖を味わい、体や心が自分のものではないということを知りました。

その経験とは「自律神経失調症」です。この病気は正式な疾患名ではなく、自律神経障害に似た症状が見られる様々な身体的不調を総称したもので、脳が受けたストレスにより自律神経のバランスが崩れ、複数の症状が同時に起きるものです。
自律神経は私たちの意思とは無関係に身体の各器官の働きを自動的に調節し、体内をいつもベストな状態に保ち続ける神経です。
「交感神経」と「副交感神経」で構成され、相反する働きを持ち、必要に応じてどちらかの働きが強くなり各器官の機能を調節しています。そのため、2つの神経のバランスが乱れると身体の多くの器官が同時多発的に不調をきたし、自分で症状をコントロールできなくなるのです。

私の最初の症状は「脳の血流障害」でした。
脳に十分な血液が送られないことからその働きが低下し、体が思うように動かず意識が朦朧とするなど、低血糖症と同じ症状に陥ります。
この時点では自律神経に問題があると思っていなかった私は、食生活を改善するなどしてこの状態を乗り切ろうとしました。
しかし日を追うごとに症状は悪化し、1ヶ月後には内臓の不調も現れ始めました。人間の体の根本的な働きである消化・吸収・排泄がうまくできなくなったことで肉体的な体力が奪われ、さらに同じ頃に現れた不眠症状が肉体だけではなく精神的な体力も奪っていきました。
この頃になると、自分が担当するレッスンを最後までやり切ることがとても辛くなっていましたが、それでも休みを取ることなく毎日綱渡り状態でレッスンを続けていました。
「私の体、どうしたんだろう。早く元に戻さなくては…。」
そう思いながらも自分の体をコントロールできず、体の状態に従わざるを得ない日々が続きました。こうして生活にも支障が出始めてもなお、私は自分の体は自分でコントロールできると信じていました。いや、そうしなくてはいけないと思っていました。

そんな身勝手な考えがストレスになったのだと思います…。
今度は酷い眩暈と吐き気に襲われ、動くことさえ出来なくなってしまいました。そして、ついに担当するレッスンを休まざるを得なくなり、ようやく病院で診察を受けて「自律神経失調症」だということが分かったのです。
原因は自分で分かっていました。この3年の間に私の人生が大きく変わったからです。
約1年続いた母の介護、そして別れ、その後に続く諸手続き、家業の清算…私一人では抱え切れないほどの『やらざるを得ないこと』が押し寄せ、休む時間も無いほど走り続けました。いや、走り続けなければならなかったのです。
この生活はどう考えても自然の流れに反したもので、自分自身でも「そのうちバランスを取るために何かが起きるに違いない」と思っていました。

人間を含め、生きとし生けるものは自然の流れの中から生まれ、生き、そして最後はその中へと消えていきます。
ヨガでは体・心・思考はすべて自然の一部であり、自然が与えてくれたもので自分のものではないと捉えます。自分の思った通りに動いてくれるわけではなく、自然の流れに従って動くものなのです。
しかし、私たちはさまざまな要因から自然の流れに反して生きていかざるを得ないことがあります。そうすると体と心の健康が損なわれ、「より良く生きる」ことができなくなるのです。
それを知っていたにも関わらず、自然の流れに反した生活を続けた代償は私にとって非常に大きなものでした。そして改めて、体や心が自分のものではないということを自然から教えられたのです。
この病気には有効な治療法は無く、投薬などの対処療法しか行われません。そこで私は通院をせずにヨガで回復を図ることにしました。そこにはこんな考えがありました。
「自然の流れに反したのだから、それを元に戻せば治るはず。ヨガでもう一度自然の流れを自分の中に取り戻そう。」
自分の担当するクラスは休まず続けながら、しばらく疎かにしていた自分のためのヨガの時間を増やしました。
アーサナ、プラーナヤーマ、瞑想など、基本的なプラクティスを無理のない程度で毎日続けましたが、自分が想像していた以上に体はダメージを受けており、すぐに回復することはありませんでした。

そんな体と付き合っていたある日、急に息苦しくなって外の空気を吸いたい衝動に駆られました。
実は、体調が悪くなった当初からずっと悩まされ続けたのが「過呼吸」です。起きている間も寝ている間も息苦しく、それが酷くなると呼吸の仕方が分からなくなりパニックを起こす…いわゆる「パニック発作」に襲われるようになっていました。
長年ヨガを続ける中でプラーナヤーマ(呼吸法)を実践してきた私は、呼吸の深さと肺活量の多さには自信がありました。そんな私が呼吸でこんなに悩むことになるとは思いもしませんでした。
いつも簡単な呼吸法を行なって発作を鎮めるのですが、この日は思い切って近くの公園へ…。しばらくの間、アーサナやプラーナヤーマを行ったり、写真を撮るなどしてのんびり過ごしました。

その後、仕事に戻った私はすぐに心身の変化に気づいたのです。
呼吸が深くなり、体が活き活き元気になっていました。心も頭の中もスッキリしてクリアになり、本来の自分が戻ってきたように感じました。それは自分の中にエネルギーが充電されたような感覚です。
そこで「はっ」としたのです。
「私、プラーナ不足だったんだ…。」

ヨガでは万物を動かすエネルギーを『プラーナ』と呼び、生命を維持し活動させるエネルギーだと考えます。
この世界のすべての場所に遍満し、呼吸を通して私たちの体内へと運ばれます。体内のあらゆる機能に関わり、感情や思考などの精神面のエネルギーとしても使われるとされています。
その『プラーナ』を取り込むために必要な呼吸の働きを司っているのが自律神経です。
私の場合、自律神経が正常に働かず、呼吸が乱れたことによって『プラーナ』を体内へ取り込めなくなっていました。その結果、体の各器官に不調が現れたのです。
それ以来、自由な時間ができるとすぐに『外ヨガ』に出かけるようになりました。自然の中に身を置くことで、屋内でのプラクティスよりはるかに多くの『プラーナ』を取り入れることができるように感じるからです。そして実際に体調はどんどん良くなっていきました。

この習慣はほぼ元の状態にまで回復した今でも続いています。
『自律神経失調症』という深刻な状態にならないまでも、日々の些細なストレスで自律神経のバランスは崩れます。知らぬ間に蓄積していくストレスに気づき、それによって影響を受ける体と心のバランスを整えるために、自然とのつながりを持つ時間が私には必要なのだと分りました。それだけではありません。今では『外ヨガ』へ行くすべてのプロセスが私の楽しみになっているのです。
しばらく自由な時間を持てず、どこかへ行こうとすることさえ考えていなかった私が、自然とのつながりを求めて積極的に外へ出るようになりました。
そして、今まで行ったことのない場所を探したり、行く準備をすることも、心と思考をストレスから解放してくれるものとなっています。

その準備の中でもいちばん楽しいのがヨガマットやヨガラグ選びです。
これが楽しいと思えるのは、私の中でジェイドヨガの存在が大きなものになっているからです。
種類が豊富なジェイドヨガの製品から、どこに行ってどう過ごすのか?によって持って行くものを選びます。その日の気分でマットの種類やカラーを決めたり、ヨガマットではなくヨガラグだけにしてみたり…。カラフルで心地良い素材に触れるだけでもストレスから解放されて、心も体も元気になっていくような気がします。
そして実際に自然の中で使うと、その心地良さをさらに深く感じることができます。それはジェイドヨガの製品すべてが自然の恵みで出来ているからだと思います。
私の『自然と繋がる』時間がいつも心地よいのはジェイドヨガと共にあるからです。

そしてもう1つ…。それは私がいつもヨガと共にあるからです。
今回の経験の中で唯一救われたことがありました。これだけ重度の身体的不調があったにも関わらず、精神にはまったく問題がなかったことです。それは間違いなく、長年ヨガを学んできたからだと思うのです。
20年もの間、私の人生のすべてにヨガがありました。
人間という存在が体や心、思考という自然の一部だけで出来ているものではないことを学んできたおかげで、『自分』を見失わずに済んだのです。

私を人生のどん底から救ってくれたのはヨガでした。
私がより良く生きていられるのはヨガのおかげです。大好きなジェイドヨガと繋げてくれたのもヨガでした。
そして今回もまた、ヨガが私を助けてくれました。この経験は私にとって、『自分』と『体』との関係性を知る大きな学びとなりました。
この『体』は自分のものではなく、自然が与えてくれたもの…『自分』でコントロールするものではなく、その存在を尊重しながら上手く付き合っていくものなのだと。
私はこれからの人生も、この体と一緒に歩んでいきます。
時の流れとともに変化していくお互いを認め合いながら、たまにはケンカもしながら、自然へと還っていくその時までずっと付き合っていきます。
だからこそ、今改めてこの『体』に感謝を伝えたいと思います。
「大切なことを教えてくれてありがとう。これからもよろしくね!」

北嶋 麻紀(Maki Kitajima)
Anandah Yoga School代表。
太極拳講師だった父親の影響を受け、幼少期より太極拳・気功を学ぶ。 2005年旅で訪れたニューヨークでヨガと出会い、帰国後すぐにヨガを始める。 2006年認定資格を取得し指導を開始。それ以降、ニューヨーク・インド・ドイツ・スイスなど、海外で修行を重ね、ヴィンヤサフローヨガを中心に流派・スタイルを問わず様々なヨガを学び伝えている。 2011年に独立し、Anandah Yoga Schoolを設立。ヨガを体系的に学べるよう、アーサナのみならず暝想や経典学習講座なども行う。また指導者養成講座にて後進の育成にも力を入れている。
【座右の銘/好きな言葉】Be in Yoga Always(いつもヨガと共に)
【指導しているヨガ】ヴィンヤサフロー
インスタグラム: https://www.instagram.com/anandah.maki/
ウェブサイト: https://www.anandahyogaschool.info/
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