
ヴィンヤサフローのシークエンス作りに頭を悩ませているインストラクターの皆さんへ。
レッスンをより効果的にするためには、どのようにシークエンスを構築すれば良いのでしょうか?
そのヒントは、アンバサダーの北嶋麻紀さんが提唱する『シークエンスという物語』を紡ぐアプローチにあります。麻紀さんの方法では、シークエンスを単なるポーズの連続として捉えるのではなく、テーマを持たせたストーリーとして構成しています。
このアプローチでは、参加者はレッスンを通じて深い感情の旅を体験し、動きの一つ一つに意味が加わります。
テーマに基づいてピークポーズを設定し、そのポーズに向かって体を徐々に準備させていくことで、レッスンに参加される"仲間たち"の集中力が高まり、達成感も格段にアップします。
麻紀さんのアプローチから、新たな視点を得て、あなた自身のレッスン作りにぜひ活かしてみてください。

私がヨガと出会ったのは旅で訪れたニューヨークでした。アメリカでは様々な流派のヨガを学ぶことができ、新しいスタイルのヨガも常に生み出されています。
その中で最もメジャーなスタイルが『ヴィンヤサフロー』です。
初めて体験したヨガレッスンがまさにこれで、元々体を動かすのが好きだった私にピタッとはまりました。
レッスン中からとにかく楽しくて、終わった後に味わった爽快感と開放感は今でも忘れられません。
それから20年以上、自身のアーサナの修行として『ヴィンヤサフロー』を続けながら、インストラクターとしてその素晴らしさを多くに仲間に伝えてきました。

『ヴィンヤサ』とは、サンスクリット語の『vi(特別な方法)』と、『nyasa(配置する)』を組み合わせた言葉で、呼吸と連動して身体を動かし流れるようにポーズを行うものです。
太陽礼拝が最も代表的なもので、複数のポーズを組み合わせた一連の流れを『シークエンス』と呼んでいます。
1呼吸1動作で動くことにより呼吸に意識が向き、自然との一体感を感じることができます。また、集中力を高める効果もあり、自分の内側へ意識が向きやすく最後には自然と瞑想へと導かれていきます。
ダイナミックに動き運動量が多い『ヴィンヤサフローヨガ』のいちばんの魅力は、何といっても『シークエンス』の自由度です。どんなポーズをどのように組み合わせるか?はインストラクターの自由…ゆえに、そこに伝える側の思いを表現することができます。

私はその日に伝えたいテーマを決め、それが表現できるアーサナを1つ選んでレッスンをしています。この1つ選んだアーサナを『ピークポーズ』と呼びますが、これをレッスンの山場として、物語を作るようにシークエンスを組み立てていきます。
シークエンスに取り入れるアーサナは『ピークポーズ』を安全かつ正しく行うために必要な身体の部位の調整ができるものを選び、アーサナからアーサナへスムーズに移行できるように組み合わせます。
物語のプロローグであるウォーミングアップから『ピークポーズ』を意識した動きを取り入れ、アーサナの難易度も徐々に高めていくことで、参加した誰もが『ピークポーズ』の意味を深く理解し、私が伝えたいことが何であるのか?を体感してもらえるように心がけています。

『ピークポーズ』を行った後はレッスンで感じ取ったことを自分の内側に落とし込む時間…物語のエピローグです。
座位や仰向け寝のアーサナをゆっくりと時間をかけて行いながら、テーマを分かりやすくインストラクションしていきます。呼吸が整い、心も身体も整った状態で自分自身の内側へ意識を向け、レッスンでの気づきや言葉にはならない感覚を改めて感じ取ります。
その感覚を留めながらシャヴァーサナへ…。ここはもう私の言葉は必要ありません。完全に心と身体を自然の流れに委ね、本来の自分に戻ります。
そして、私が最も大切にしている時間がやってきます。それが瞑想とチャンティングです。
レッスンでの気づきや体感したものはすでに自分の奥深くへ染み込み、思考も心も身体も空っぽな状態です。ただ目を閉じ、何もしない『無』の時間を味わいます。
最後に、同じ時間を共有した仲間と生きとし生けるものすべての幸せを祈り、全員でチャンティングを行います。
唱え終わった後に残るのは全員の呼吸が1つになって生まれる『静寂』…。この瞬間をみんなで味わうために、私は日々『シークエンス』という物語を作り続けています。

実は、私が『シークエンス』を作ることよりも重要だと考えているのが『テーマ』の選定です。
私はヨガを通して『本来の自分』を取り戻しました。その経験を自分の身体を使って、心を使って伝えていきたい…これが指導者になった大きな理由です。
20年にわたる自身の修行の根底を支えてくれているのが『ヨガ哲学』。
この深遠な教えを仲間に伝えていくことが、指導者としての私の使命だと考えてきました。しかし『ヨガ哲学』はとても難解なもの…それを理解してもらうのは非常に難しいものがあります。
そこで私はクラスのレベル、ヨガの経験などに合わせてテーマを選択し、誰もが楽しく興味を持ってヨガを続けてもらえるように工夫しています。
例えば、まだヨガを始めたばかりの初心者向けクラス…まずは自分の身体や呼吸に意識を向けることができるテーマを選びます。
季節や天候による心身の変化に対応したテーマ、身体の各部位にフォーカスしたテーマなどを選ぶことで、レッスンの意図や目的がより明確に伝わります。それを積み重ねていくことで、ヨガの本質に気づいてもらえる時が来るのを待ちます。

ヨガの経験が深まってくると、次第に『呼吸法』や『チャクラ』などの技法に興味を持つ仲間が増えてきます。また、私自身の経験と『ヨガ哲学』を結びつけて話をしていくことで、多くの仲間がヨガの本質的な部分へと意識が向くようになっていきます。
このように上級者クラスでは、私が本当に伝えたいと思っている深遠な教えそのものをテーマとして取り上げます。これにより、ヨガ=エクササイズ、ヨガ=アーサナではないことと知り、誰もが自分自身に気づくきっかけを作ります。
もちろん一度では理解できないものばかりですから、今まで何度も何度も繰り返し同じテーマを選んできましたし、今後もそれは変わりません。同じことを繰り返し学んでいくことで、やがて自分にとって必要な気づきがやってくる…それは私自身が経験してきたことであり、仲間に伝えたいと思うテーマの1つでもあります。
『テーマ』に合わせ『シークエンス』という物語を歩んでいくことは、やがて生き方そのものを変えてくれます。かつて私が経験したように…。

「人生の流れそのものが『ヴィンヤサ』である」
『ヴィンヤサヨガ』を生み出し、『現代ヨガの父』とも言われるティルマライ・クリシュナマチャリアのこの理念には、私が伝えたい『ヴィンヤサフロー』の極意、生き方の極意がそのまま表現されているように感じます。
常に動き続ける『目の前の世界』…その自然の流れに自分のすべてを委ねて生きる…。
『ヴィンヤサフロー』はこの大切なヨガの教えを心と体で感じさせてくれるものです。そして、それがやがて「自分とは何か?」ということに気づかせてくれるのです。
これからも多くの仲間たちが「自分とは何か?」に気づき、人生という『ヴィンヤサ』をより良く生きていけるよう、私自身のヨガへ対する思いを表現する『シークエンス』を作り続けていこうと思っています。
麻紀さんがリードする『大地と繋がり自然へと広がろう!』をYoutubeでご覧ください。

北嶋 麻紀(Maki Kitajima)
Anandah Yoga School代表。
ヨガを体系的に学べるよう、アーサナのみならず暝想や経典学習講座なども行う。また指導者養成講座にて後進の育成にも力を入れている。
ジェイドヨガマットとの出会いはニューヨークへの一人修行の時。以来10年以上愛用し続けている。自身のクラスはもちろん、海外へ行く時もジェイドと一緒。海外のヨガスタジオの多くでジェイドが使われていることを実感。 ジェイドがグローバルスタンダードなヨガマットであることを多くの人に伝えていきたい。
【座右の銘/好きな言葉】Be in Yoga Always(いつもヨガと共に)
【指導しているヨガ】ヴィンヤサフロー
インスタグラム: https://www.instagram.com/anandah.maki/
ウェブサイト: https://www.anandahyogaschool.info/
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