アンバサダー北嶋麻紀さんの、インド修行の体験記をお送りします。
今回の滞在で麻紀さんは、師であるスワミジの教えによって、これまでにない深い気づきを体験したと言います。その教えとは『深いヨーガの修行に必要なのは常に心と体を自然と調和させること』ということ。
調和させることではじめてたどり着いた奥深い扉をくぐるとき、亡き母への介護に捧げた日々に想いが至ります。
インドでの深いヨガ修行に興味をもつ方にとって、新たな気づきやインスピレーションとなることでしょう。
9月の後半、東京にある友永ヨーガ学院の友永淳子先生と一緒に10日間ほどインド、リシケシにあるシヴァーナンダ・アシュラムへ修行に行ってきました。今回の修行は私がどうしても行きたいと願ったものでした。
それはこの9月末で母が他界してちょうど1年の節目だったからです。二人で共に過ごした母の最後の日々は私にとってヨガの修行の1つであり、それを全うできたことによって多くのことに気づき、様々なことを学びました。
この修行で学んだことをヨガを通して自分の中で整理したいと思い訪れたアシュラムで、私はとても大きな気づきを得ることになりました。
私がどのように修行期間を過ごし、何を得たのかをまとめたいと思います。
シヴァーナンダ・アシュラムでの修行は今回が4回目で、私にとっては慣れ親しんだ場所です。日本での忙しい生活から離れ、ヨガを通して今の自分と向き合い、本来の自分を取り戻す…それができるのがアシュラムでの修行です。
その生活は毎日同じルーティーンで行われます。早朝の瞑想から始まり、夜のサットサンガまで…その全てが祈りと学びの時間で、アーサナの時間はありません。それは体と心が整っていることが前提となっているからです。心身が本来の状態になければ、祈りも学びも自分の内に落とし込めないということなのだと思います。
私たちは友永先生が毎朝行ってくださるアーサナレッスンを受けながら心身を整えて修行をしました。
そのために持参したジェイドヨガマットのおかげで日本にいる時と同じ感覚で気持ち良くアーサナができ、私の体と心は本来の状態を保っていました。
いや、自分では保っていたと思っていたのですが…。
私は今回の滞在中にヨーガの修行において体と心を本来の状態に保つことがどれだけ難しく重要なことなのかを身をもって知ることになります。
今までと変わらない修行生活を今までと同じように楽しみながら過ごしていましたが、私の中でどこか油断があったのかもしれません。
滞在3日目、突然体に異変が起きました。それは人生で初めてというほどの激しい腹痛でした。意識を失いかけるほどの痛みで、うずくまったまま全く動けない状態で1日を過ごしました。
幸い、周りの仲間たちがアーユルヴェーダの処置や献身的に身の回りの世話をしてくれたおかげでその日の夜には腹痛は治まり、翌日は無事に早朝の瞑想から参加することができました。
しかし、ここでまた私に新たな異変が起きたのです。
早朝の瞑想はスワミ・シヴァーナンダ(グルデヴ)のご遺体が安置されている『サマディ・ホール』という場所で行われます。ここはアシュラムの中でいちばん神聖な場所とされており、瞑想以外でも大切な儀式などが執り行われる重要な場所でもあります。目の前にはグルデヴの肉体が収められた棺があり、左右に生前の写真が飾られています。
瞑想のために腰を下ろし顔を上げると、グルデヴの立ち姿の写真が目に映りました。その瞬間、私の中で雷に打たれたような衝撃が走ったのです。
「これってウチの母親にそっくり…」
自然と涙が流れてきました。私はグルデヴの中に母を見たのです。その体型といい、立ち姿といい、まさに母そのものでした。涙を流しながら瞑想に入り、自分の中で起きた衝撃について考えました。そして気づいたのです。
「そうか、私はずっと母の中にグルデヴを見ていたんだ。つまりグルデヴに対してカルマ・ヨーガしていたということなのか?」
母の体調が悪化したのは昨年の1月…。この頃から日常生活に介護が必要な状態となり、2人の二人三脚での生活が始まったのです。それまで母の病気をそれほど心配していなかった私でしたが、ここに至ってようやく母の命の時間があまり残されていないことを悟りました。そして今まで母に対して何もしてあげられなかった後悔の気持ちでいっぱいになった私は決めたのです…
「ここから先は私の全てを母に捧げよう。」…と。
この先、母の命がどこまで続くのかはわかりませんでしたが、とにかく最期の時まで自分の人生を母のために使おうと思ったのです。
それから始まった母との生活は私の生き方を変えてくれるものでした。人生の中でいちばん母と同じ時間を共に過ごし、いちばんたくさん話をし、いちばん笑い合いました。
もちろん良いことばかりではありませんでした。むしろ辛く苦しいことのほうが多かったように感じます。それでも常に母がより良く生きられるよう出来る限りのことをしました。
このように自然が与えてくれた『自分にしかできないこと(ダルマ)』を遂行していくことが『カルマ・ヨーガ』です。『カルマ・ヨーガ』は結果に執着せず、自分の『ダルマ』を無心に遂行していくことで『私』という意識を超えていこうとするものです。私のこの修行はまさに母へ捧げた『カルマ・ヨーガ』だったのです。
「でもなぜ母の中にグルデヴが?グルデヴはとっくにお亡くなりになっているし、母もグルデヴのことを知らなかったし…。」私の思考がこの衝撃の答えを探していました。
そして気づいたのです。「そうか!これが『大いなる存在』だ!」
私は母へのカルマ・ヨーガを通して、母の中に『大いなる存在』を感じ取っていたのです。しかし自分自身でそれに気づくことができずにいたので、グルデヴがご自身の姿を見せて教えてくださったのだと思います。
ヨーガでは、この世界は『大いなる存在』が司っており、その意識が目の前の世界に遍満しいる、全てのものはその一部分であり、いずれはそこに回帰する、と考えます。
人間はそれを知らずに『私』という小さな枠の中で生き、他と自分とを区別する中で様々なことに葛藤し苦しみを味わうとされています。それに気づき、『私』という意識を超えていこうとするのがヨーガの教えであり、そのための実践方法を学ぶのがヨーガの修行です。
このように深いヨーガの叡智を学び実践していくにはそれに耐えうるだけの肉体的、精神的強さが必要となります。特に『カルマ・ヨーガ』は自分の体と心を使って修行をしていくものであるため、常に体と心を『本来の状態』に保っておく必要があるのです。
この『本来の状態』について、スワミジはこうおっしゃっていました。
「自然と自分との調和を図ることヨーガだよ。ヨーガのゴールであるサマーディとは最高に調和がとれた状態のことだ。」つまり『大いなる存在』とは目の前の世界に遍満する『自然』だと解釈できます。
今振り返ると、この2年間は私の体も心も『自然と調和した状態』とは程遠いものでした。
ただただ続いていく母への『カルマ・ヨーガ』を遂行することに必死で、自分自身と向き合うことができていなかったのです。もちろんその間もアーサナやプラーナヤーマ、瞑想は毎日欠かさず行い、ヨーガを伝えることも続けていました。でも、それは自分の表面的な意識と向き合っていただけで、もっと奥深くにある本来の自分と向き合っていなかった…肉体的な異変と心の異変を通して、私はようやくこれに気づいたのです。
そして分かったのです、腹痛が肉体の浄化作用であったと…。肉体が浄化されたことで今度は心の浄化が起きたのだと思います。そう気づいた時、私がアシュラムへ来ることになった理由もわかりました。本来の自分と向き合うためだったのです。
この2年間の点と点が1つに繋がった瞬間、私は縛られていた何かから解放され、今まで味わったことのない幸せに満たされた内なる静寂を感じました。
これこそがスワミジがおっしゃっていた『最高の調和状態』だったのだと思います。
アシュラムで修行していると、その時の自分にとって必要なことに気づきます。いや、気づくのではなく気づかせてもらえるのです。それは自分自身で「気づく」というよりも、目には見えないものから「気づきを与えられる」といったほうが良いかもしれません。それを与えてくれるのが『大いなる存在』なのでしょう。
しかし、その気づきを与えられるには自分自身が『大いなる存在』である『自然』と調和していなければなりません。私たちの体も心も『自然』の一部分…ゆえにこの体と心を最高の調和状態に保つためにアーサナがあり、プラーナヤーマ、瞑想があるのです。
特にアーサナは『自然』とダイレクトに繋がっている肉体に働きかけるもので、自分の内と外を繋ぐ門だと言えます。それが『自然』と調和した時に初めて、その奥にある心や思考、『私』という意識も調和した状態になります。
全身で『自然』を感じ取り調和する…『自然』の中で生かされている自分に気づくことで『自然』と本来の自分が調和する…これがアーサナの目的だと思います。
だからこそ、自分に対して繊細に意識を向けることができるツール、そうヨガマットが必要なのです。
常に大地との繋がりを感じさせてくれるジェイドヨガマットで長年アーサナを続けてきたことで、私の肉体は『自然』と調和することができました。そして、それが本来の自分と『自然』との『最高の調和状態』を生んでくれたのだと確信しています。
今回の体験はこれからの私の人生を変えるものであったと同時に、その先にあるヨーガのゴールを目指して修行を続けていくことを決意させるものでした。
日本に戻った今、ジェイドヨガと共に体と心を『最高の調和状態』に保ちながら私はこの新たなる修行の道を歩み始めています。そして、その修行の途中でまた、その時の自分自身に必要な気づきを得るためにアシュラムへ行きたいと思っています。
北嶋 麻紀(Maki Kitajima)
Anandah Yoga School代表。
ヨガを体系的に学べるよう、アーサナのみならず暝想や経典学習講座なども行う。また指導者養成講座にて後進の育成にも力を入れている。ジェイドヨガマットとの出会いはニューヨークへの一人修行の時。以来10年以上愛用し続けている。自身のクラスはもちろん、海外へ行く時もジェイドと一緒。海外のヨガスタジオの多くでジェイドが使われていることを実感。 ジェイドがグローバルスタンダードなヨガマットであることを多くの人に伝えていきたい。
【座右の銘/好きな言葉】Be in Yoga Always(いつもヨガと共に)
【指導しているヨガ】ヴィンヤサフロー
インスタグラム: https://www.instagram.com/anandah.maki/
ウェブサイト: https://www.anandahyogaschool.info/